私の授業のひと工夫 第13回

 私は生命科学部の1年から3年次までの授業科目を担当しております。それぞれ、「分子生物学I」、「ゲノム構造機能学I」、「遺伝子工学」です。生物の司令塔とも言えるゲノムの機能について、基礎から応用までの理解を根付かせるのが私の役割と考えています。
 生物のゲノムには、A, C, G, Tの4種類の文字から成る暗号が配列されています。その配列にはタンパク質をコードする遺伝子と呼ばれる領域があります(細菌では約4000個ぐらい)。学生は、一見無機的な配列から生物という 有機的な機械を理解する必要があります。しかし、配列から生物をイメージすることは、入門者にとってたいへんです。
 私の講義では、できるだけ身近な例えを入れて解説しています。例えば、ウイルスは細胞構造を持たず、細胞中でしか自己増殖できない(生物)です。しかし、その宿主となる細胞の中に入ると、1)材料を奪い増殖し細胞を壊してでていくウイルス(強盗)と2)宿主と暫くは生活を共にするのですが、宿主がピンチになると増殖して細胞を破壊するウイルス(詐欺師)がいます。これらの細胞にとっての悪者も、生きるための戦略としてそのような機能を身につけたのですが、ドラマにでてくるような巧妙な方法(遺伝子発現システム)を使っているのが面白いところです。私の講義では、このようにイメージし易い例え(悪い例えですが...)を随所に入れて説明しています。複雑な遺伝子の働きも、さらにイラストにすれば一層わかり易くなりますね。入門者には文字通り入り易いように「ソフトに丁寧に」というところが工夫のひとつということでしょうか?学年が上がりイメージができあがれば、それほど優しい例えは必要ありません。入り口のところで、印象に残るように説明し、いかに専門分野に興味を持ってもらうかということが最重要と考えています。さらに、しっかり理解できたか確認するために、受講生にマイクを持たせて図表の説明を説明してもらうということをしています。学生にはいつも緊張感を持って授業に参加してもらっています。