文学の講義は朗読に磨きをかけて

私は「日本文芸研究特講3(中世)A・B」という科目を担当しています。 本科目は日本中世の代表的な文学作品をとりあげて講読するもので、今年は『平家物語』を扱っています。ご承知のとおり、『平家物語』は琵琶法師による「語り」を通じて広く享受されてきました。授業で使用するテキストは、彼らの台本として最も著名な「覚一本」系統のものを用いています。同本は今日、『平家物語』諸本の中でもっとも優れた詞章を持つとされています。 こうした作品を扱うにあたり、言葉の響きが持つ美しさをいかに伝えるかに腐心しています。無論、私に琵琶法師の真似などできるわけないのですが、それでもこのテキストは素読みするだけで素晴らしい。単なる朗読でも、十分その魅力を伝えることができるはずです。 そうした際に参考になるのが、アナウンサーの朗読法です。たまたま私はNHKサービスセンターが発行している古典朗読のCDシリーズのうち、『太平記』の朗読監修をする機会に恵まれました。そこでは長谷川勝彦アナウンサーの朗読に間近に接し、間やアクセント、抑揚のつけかたを学ぶことができました。そして、何よりも語尾まで疎かにしない丁寧な語り口を体感できたことは、私にとって大きな財産となったのです。以後、教室でテキストを読むとき、私は密かに長谷川さんを意識しています。勿論、授業の前には朗読の練習も欠かせません。 文学の講義とは、テキストが持つ異次元の世界に学生をいざなうことです。教室だからこそ、それは音読によって実現されなくてはなりません。作品解釈に割く労力も重要ですが、まずはテキストを読み上げるという、実に基本的な作業に力点を置くのも一案ではないでしょうか。