教科書

教科書について、教員にとって以下のような基本的課題があります。 A.教科書を授業でどのように位置づけるべきだろうか。特定の教科書を指定すべきだろうか。 B.教科書をどのように選択したらよいだろうか。 C.教科書を講義のなかで実際どのように活用したらいいだろうか。 以下ではこうした三つの課題について考察してみましょう。

A.教科書を採用すべきか?

まず、教科書を選定することの利点について考えてみましょう。次のような利点を挙げることができます。 1)学生にコースの整合性と見通しをもたらすことができる。 2)重要な概念や定理・定義を常に参照するために役立つ。 3)学生が予習や復習を行うことがより容易になる。 4)教員がもし説明不足であったりしても教科書で補うことができるようになる。 このような利点を考えてみれば、もし良い許可書が入手可能であれば、また授業の目的に照らしてより効率的に授業が行えるという判断があれば、教科書を指定することが望ましいようにも思えます。 しかし教科書について学生から苦情が出る場合もあります。それはつぎのようなものです。 1)教科書と同じことしか講義しないのなら授業に出なくてもいいのではないか。 2)教科書と違う講義内容が多いので、テキストを買う意味がない。 このために教科書を採用する場合は教科書を学生が活用でき、せっかく学生が購入しても無駄にならないよう配慮することが必要です。 また教科書を採用することの問題点として、次のような指摘もあります。教科書を指定してしまうとそれが逆に制約条件となってしまうことがあります。用語や表記方法などその本に従わざるを得なくなってしまうからです。教科書を授業で採用するにあたってはこうした問題点をあらかじめ知っておく必要があります。 むろん教科書を特定せず、手作りのプリントあるいは既存文献のコピーを配布する、あるいはインターネットのウェブサイトを見るように指定する、などの方法もあります。また教科書は一冊である必要は必ずしもありません。場合によっては教科書を一冊と、複数の参考書目を指定するやり方もあるでしょう。 授業の冒頭で教科書をどのように使うかを学生に明快に説明しておいてはどうでしょうか。「教科書を中心に授業を進めるので、教科書の補足として講義を行う」あるいは、「教科書は授業では直接扱わないが、重要項目を自習するために用いる」などです。 学生の立場に立ち、講義の目的に照らして、学習がより効率的に進むよう教科書類を活用することが求められます。

B.教科書をどのように選ぶべきだろうか?

それでは教科書を採用するとして、どのように選べばよいでしょうか。教科書選択の基準について、ある電子工学の担当教員は次のように述べています(文献1)。 1)修めるべき必要最低限の項目が掲載されているか。学生が真面目に読めば、理解できる内容であるかどうか。 2)教える内容の順序が学生が理解しやすいように体系化されているか。 3)授業の単位数(二単位あるいは四単位)の授業用に適切だろうか。 4)本のサイズや表紙・内部の紙質が適切だろうか。読み易い活字で作成されているだろうか。 5)教科書全体のレベルが学生と授業の目的にとって適切だろうか。 6)記憶すべき事項がゴチックやアンダーラインで強調されているだろうか。 7)適切な質と量の例題と演習問題があるかどうか。 8)専門用語が正しく定義され、外国語で併記されている。 むろん教科書を採用しようとしても、自分が気に入る教科書が市販されていないという場合もあります。逆に、教科書でその分野のスタンダードとされているものがあり、それを採用しないということがむしろおかしい、という場合もあるかもしれません。さらに価格の問題もあります。アメリカでは大学の教科書の価格が高騰し近年問題になっていますが、学生の購買能力を考えてみることも必要かもしれません。 いずれにせよ、理想的な教科書などはありえないという前提に立って、より良い教科書を常にウォッチする、あるいは自ら教科書を書くこともそれぞれの教員に課せられた課題であるということができます。

C.どのように実際に教科書を活用したらいいのだろうか。

教科書を指定するとして、学生に適切な使用方法を指導する必要があります。いくつかの方法が考えられます。シラバスに沿って、毎回予習することを義務付ける場合、復習として教科書を使うことを勧める、試験対策としておさらいのため教科書を読ませる、講義中に教科書の特定ページを指定して、そこの課題を解かせる、あるいはッ授業で討論の課題にする、などです。 ひとつの問題は、教科書はどこで使うか、という問題があります。教科書を講義時に持参するよう指定するか、あるいは自宅に教科書を置いて使用する、というふたつの選択があることです。アメリカの教科書は一般的にとても分厚いものが多いのですが、これは自宅に置くことを前提にしているからだ、という説を聞いたことがあります。逆に日本の教科書は多くの場合、学校と自宅で持ち歩くことを前提にしているように思えます。 基本的に重要なことは、この講義において学生に教科書はこのように活用する、ということをはっきりと指示することです。また教科書の読み方、読む順番、念入りに読む箇所などを指定することも有用でしょう。ここでも学生の立場になって、教科書を購入したけども、無駄だった、と思われないよう、教科書の活用方法を学生にコミュニケートすることが望ましいのです。 付帯的な注意として、教科書の入手可能性のチェックがあります。教科書を学生は遅くともいつまでに入手すべきか、また教科書はどこに行けば入手できるのか、を把握し、備えておく必要があります。教科書によっては版元切れになっていることもあります。特に外国の教科書を使う場合は、日本に十分な在庫があるか、あるいは、輸入するときどのくらい時間がかかるかを本屋さんと相談しておく必要もあるようです。 ある教員はつぎのような教科書との「付き合い方」を勧めています。 1) 週末に教科書を読み直して授業改善のためのヒントを見つける。 2) 講義ノートを仕上げた後で教科書を再読する。 3) 3-4冊の初学者向けの教科書と専門書を読んで、アプローチを比較する。 より効率的かつ効果的な講義を展開するために、教科書は重要な役割をになっています。その利点と問題点をよく理解したうえで、教科書の活用法を考えることが必要といえるでしょう。

参考書目

  1. 『大学力を創る:FDハンドブック』財団法人大学セミナー・ハウス編、東信堂、1999、P.160. 木野茂(2005)
  2. 『大学授業改善の手引き』ナカニシヤ書店。 Davis, Wood, & Wilson (翻訳1995)
  3. 『授業をどうする! カリフォルニア大学バークレー校-の授業改善のためのアイデア集』、東海大学出版会。 池田輝政・戸田山和久・近田政博・中井俊樹(2001)
  4. 『成長するチップス先生~授業デザインのための秘訣集』玉川大学出版部