迫力の500人授業
3回も教室変更を重ねて、ようやく落ち着いたのが薩埵ホール。800人のキャパに対して500人近い受講者数。“授業”そのものの技術に関しては、中学・高校で国語の教師経験があり、自信を持っていた私も、昨年度の「現代社会と家族」の受講者の多さには度肝を抜かれた。 プリントなど配布物の多い授業スタイルをとる私には、リアクションペーパーも含め、3~4枚のプリント物を配布するだけで優に20分は要する。回収とて同様である。机間巡視と言っても、フロアから最上段まで急な階段を昇りつめると、何と45段にも達している。 「毎授業ごとの出欠はとらないで、試験の実施だけでいいのではないですか」 講義通信などの資料配布だけでなく、学生にミニリポートまで課し、目を通している私を見て、親切にアドバイスしてくださる教員も珍しくなかった。しかし、私はあえて“逆手の作戦”に打って出た。
30人と同様の“授業効果”をめざす
「これだけの大人数。私だけがんばっても効果が上がるはずがありません。かと言って手抜きは嫌です。私の“教師魂”が許しません。そこで受講生のみなさんにお願いです。私は30人学級と同等の効果を目指して努力するつもりです。だからみなさんも一緒に協力して、質が高く、満足度も高い授業にしようではありませんか―」 私の真剣な訴えに、多くの学生は頷いてくれた。 手ごたえは充分であった。 驚くべきことに、集団討論やメモ作成の作業を指示しても、500人が一斉に集中して取り組んでいる。私語も一切ない。「はい、やめて―」など、私の指示も見事に通る。これはまさに、文字通り30人学級での授業風景であり、反応である。 「今日の学生もやればできるものだ!」 学生の授業態度の良さは、私の予想をはるかに超えていた。
机間巡視、ディスカッション、発言
今日の理想の授業スタイルは、学生「参加型」であろう。500人もの規模でそれをどのようにして実現するのか。また、どこまで効果を上げることができるのか。私は、悪条件のチャンスを生かして挑戦したかった。 まず、学生相互の信頼関係と学び合いの雰囲気を形成するために、講義通信を毎回2~3号発行。先回提出されたミニリポートからさまざまな意見や感想を取り上げ、それらを素材にしながら授業を展開していく。これによって相互理解力を組織し、学生相互の学び合いを目指した。 次に、授業中に最低2回のワークを取り入れた。新聞記事や内容に関する発題について、隣席同士のディスカッションを呼びかける。これも漫然とではなく、「2分間話し合いなさい」などと明確に時間を設定することがポイントである。「はい、やめ!」の号令で一斉にやめさせ、机間巡視しながらいくつかのグループにディスカッションの内容を報告させる。こうして“集中力”と“緊張感”を持続させ、授業にメリハリをつけるのだ。 このように、あの広い薩埵ホールを縦横無尽に動き回りながら、まさにライブ感覚で授業を進めていった。
高い満足度
FDによる満足度調査では75%を目標に設定していたのだが、結果を見て驚いた。100%のゼミに次ぐ、「95.8%」。高い満足度が数値として出ていたのだ。 今年度は最初に受講生との共同作業の約束を怠ったせいか、集中力に欠け、私語がやまないなど一部の学生に乱れを感じる。しかし、授業中に書かせるミニリポートを読むと、毎回真剣に思索している様子が窺え、なかなか質も高い。これをテコにしながら、いかに問題点の克服と軌道修正をするのかが、今後の課題である。 授業づくりに「完成」という言葉は当てはまらないようである。今日も、模索は続く。 (注)参考資料は①「講義通信」、②「リアクションペーパー」の実物である。