インタビューという教育方法
私が担当しているキャリアモデルケーススタディーという授業では、様々な職場で活躍されている職業人の方をお呼びして、現在の仕事と今までのキャリアを語っていただいている。 仕事を持ったことがない学生たちに向けて、職業キャリアの形成過程を理論だけで講義し、理解させることは難しい。この授業では、学生たちがキャリアトーク(仕事経験の語り)を聴くことで職業世界を身近に実感してもらうことを試みている。要するに、キャリアデザイン学の教材を提供していると考えていただきたい。
もちろん、職業人を授業にお呼びして仕事経験を話してもらう授業は、他大学や他学部も取り入れられている。しかし、このタイプの授業には意外な困難があり、運営上の問題を抱える可能性も高い。 お呼びした職業人が話し上手であるならばよいが、必ずしも優れた職業人が優れた語り手ばかりとは限らない。一方、話し上手な人ばかりを呼べば、語り手の職業に偏りが生まれてしまうであろう。面白い話を聴きたければ、講演慣れした人を呼べばよいのであって、それでは多様な職場の仕事経験を学ぶという本来の目的が失われてしまうのである。
私は、1回目の授業で「皆さんは、インタビュアーである」と話しかけます。「仕事経験を持たない君たちが、限られた時間で何十年という職業経験を聴こうと思っている」と、聴くことの困難を伝えます。それと同時に私自身のインタビュー経験を話し、仕事経験に伴う感情、価値観などを理解できた喜びも語ります。このように受け身の姿勢から聴く姿勢へのうながしを行った後、2回目以降の授業では、下調べ、質問項目作成、インタビュー術の講義を行います。語り手をお呼びするのは、インタビュー術の講義を行った後になります。たった数回のインタビュー手法の講義であっても、学生たちの目つき、授業への取り組みを大変化しますし、キャリアトークの読み取りも飛躍的に向上します。